2017年11月13日

娯楽読物4-12 アッシェンバッハは微笑した

 アッシェンバッハは微笑した。なるほど、小さなのらくら者め、とかれは思った。――君はこの連中とはちがって、眠りたいだけ勝手に眠るという特権をうけているらしいな。――そして突然陽気になったかれは、胸のなかでこういう詩句を吟じた。
「いくたびか変えぬ、よそおいと暖かきゆあみとやすらいは。」

 かれはいそがずに朝食をすませて、金モオルのついた帽子をぬいだまま食堂へ入ってきた門衛の手から、幾通かの回送されてきた郵便を受けとると、巻たばこをくゆらしながら、二三の手紙を開封した。そういうわけで、かれは、むこうの席で待たれている朝寝の少年が入ってきたとき、まだそこに居合わせたのだった。

 少年はガラス戸から入ってくると、静かななかを、ななめに部屋を突切って、姉たちの食卓のほうへ歩いて行った。その歩きかたは、上体の姿勢にも、ひざの動きにも、白靴の足のあげようにも、なみなみならぬ優雅なところがあった。

それは非常に軽やかで、やさしいと同時に昂然こうぜんとしていて、そのうえ、途中で二度、広間のほうへちょっと頭を向けながら、目をあげてはまた落したとき、子供らしいはにかみで美しくされていた。微笑しながら、持前のやわらかくぼかしたような口調の低い一語とともに、かれは自分の席を占めた。

そしてことさらこのときは、かれの顔が、見つめているアッシェンバッハのほうへ真横に向けられていたので、アッシェンバッハはまたしても、この人間の子のそれこそ神に近い美しさに、感嘆した。いや、驚愕きょうがくしたのであった。

少年は、青と白のしまのある、リンネルの、軽快な、ブラウスのついた服を着ていた。服は胸のところに赤絹のリボンがついていて、くびすじのところで、あっさりした白い立襟たてえりにくぎられている。ところでこの服の特徴に対して、別に上品な釣合いも見せようとしないそのえりの上に、花の咲いたような首が、たとえようもなく愛くるしくのっている。

――それはパロス産の大理石のもつ淡黄色の光沢をおびた、エロスの神の首で、細いおちついた眉があり、こめかみと耳は、直角にたれかかる捲毛で暗くやわらかくおおわれていた。

 いいなあ――とアッシェンバッハは、芸術家がときどき、一つの傑作に面して、その狂喜、その恍惚こうこつをあらわす、あのくろうとらしく冷静な是認の気持で、そう思った。そしてさらにこう考えた。――全くだ。

海やなぎさがわたしを待っていないにしても、――おまえがいるかぎり、わたしはここを去らない。――しかしそのままかれはそこを出た。使用人たちに注視されながら、ロビイを通りぬけて、大きなテラスをおりて、まっすぐに板の小橋を渡ると、ホテル客専用の、仕切ってあるなぎさへ行った。

リンネルのズボンと水兵式のブラウスとむぎわら帽をつけて、そのなぎさで水泳場取締人の役をしているはだしの老人に、浜の貸小屋を教えてもらうと、かれはテエブルといすとを、砂にまみれた木造の壇の上に出させて、自分でさらに海に近く、ろうのようにきいろい砂の中まで引っぱって行ったそのねいすに、ゆったりとからだを休ませた。

 なぎさの光景――文化というものが水ぎわでのんきに官能的に楽しんでいるこのながめは、いつものとおり、かれを楽しませ喜ばせた。灰いろをした浅い海は、ぼちゃぼちゃやっている子供たちや、泳いでいる人々や、両腕を頭の下に組んで砂州の上にねている、雑多な人物たちなどで、すでににぎわっていた。

一方には、小さな、赤と青にぬられた、竜骨のないボオトをこいでは、笑いながらてんぷくしている連中もあった。小屋の長くつらなった列――小屋に付属した壇の上には、小さいベランダにすわるようにすわっている人がある――その列の前には、遊びたわむれる動きと、ごろごろねそべっている安息、訪問とむだばなし、場所柄の無拘束をあつかましくのんきにたのしんでいる裸形に並んで、念入りな朝の端麗たんれいがあった。

前のほうのしめって固い砂の上には、白い浴用ガウンと、濃い色合いの、ゆるやかな肌衣を着たまま、ぶらぶら歩いている人が少しあった。右手にある、子供たちのこしらえた、入り組んだ砂の城には、小さな万国旗が一面にさしてあった。

貝がらだの菓子だの果物だのの売り手たちが、ひざをつきながらその商品をひろげていた。左手には、ほかの小屋となぎさに対してはすかいに並んでいて、そのがわでなぎさを仕切っているいくつかの小屋の一つの前に、ロシア人の一家族が野営していた。

――ひげをはやした、大きな歯の男たちと、ぐったりした、気力のない女たちと、画架の前にすわって、絶望のさけびをあげながら海をかいている、バルチック種の令嬢と、温良でみにくい二人の子供たちと、ずきんをかぶったやさしく恭順きょうじゅんな奴隷どれいぶりの老女中が一人とである。

感謝をこめて享楽しながら、かれらはそこで生活している。言うことをきかずにあばれまわる子供たちの名を、あきずに呼び立てたり、菓子売りのおどけた老人と、わずかなイタリア語で長いあいだじょうだんを言い合ったりして、自分たちの人間的な共同生活をだれが見物していようと、ちっとも気にかけていなかった。

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posted by 美健マスター at 06:00| ★娯楽読物 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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