2017年09月29日

娯楽読物2-11 おとうさん、たいへんです

「おとうさん、たいへんです。黄金仮面が、あらわれたのです。顔ばかりじゃなくて、からだじゅう金色のやつです。」

 不二夫君は、いま、庭で見たことを、くわしく話しました。そして、その黄金怪人がグーテンベルクの聖書を、三日のうちにもらいにくるといったことも、話しました。

「なに、グーテンベルクの聖書を盗みにくるというのか。ハハハ……、そんなことができるものか。あれは、鉄筋コンクリートの蔵の中の大金庫にしまってある。その金庫のひらきかたは、おとうさんのほかには、だれも知らないのだ。どんな魔法つかいだって、あれが盗みだせるものじゃないよ。」

 おとうさんは、そういって気にもとめないようすです。
 不二夫君は、グーテンベルクの聖書というものが、蔵の中にしまってあることは聞いていましたが、それが、どうして、そんなにだいじなものだか、よく知りませんので、おとうさんに、たずねてみました。するとおとうさんは、こんなふうにお話しになるのでした。

「おまえは、まだ学校でおそわらないだろうが、グーテンベルクというのは、今から五百年もまえのドイツ人で、活版印刷を発明した人だよ。その人が、じぶんで印刷したキリスト教の聖書が、世界じゅうに、ごくわずか残っていて、ひじょうにとうといものになっている。

何十年に一度、その聖書の一ページだけでも、古本屋やこっとう屋にあらわれると、世界じゅうから買いてが集まってきて、おそろしく高いねだんがつくのだよ。

 おとうさんは、今から十何年まえに、会社のロンドン支店長をやっていたが、ちょうどそのころ、ロンドンのこっとう屋に、グーテンベルクの聖書のバラバラになったページが、十四枚そろったのが出た。そのときも、世界じゅうから買いてがやってきて、大さわぎになったが、おとうさんは、昔から、古い本をあつめるのがすきだったから、会社からお金をかりて、思いきったねだんをつけて、とうとう、その十四枚を手にいれたんだよ。そのころの三十万円だった。いまの日本のお金にすれば、一億円いじょうだよ。」

「へえ、たった十四枚の本の切れっぱしが、一億円なの?」
 不二夫君は、びっくりしてしまいました。

「グーテンベルクの聖書は、世界でいちばん高い本だよ。もし、ちゃんと、そろった一冊の本が出れば、十億円もするかもしれない。そういう、そろった本は、どこの国の博物館にあるとか、持ち主がわかっていて、なかなか売りものには出ないのだがね。おとうさんの十四枚の聖書も、日本では、知っている人がすくないけれども、世界じゅうの学者や、本のすきな人たちには、よく知られているのだよ。」

 不二夫君は、そんな宝物が、うちの蔵の中にあるのかとおもうと、なんだか、胸がドキドキしてきました。
「金色の怪人は、それを知っていたのです。だから、盗みだしにくるのですよ。おとうさんどうしましょう。はやく、ふせがなければ……。」

 不二夫君は、もう気が気ではありません。しかし、おとうさんは、おちつきはらっています。
「そんな金色の人間なんて、いるはずがない。おまえはまぼろしでも見たんじゃないか。ちょっと来てごらん。熱があるんじゃないのかね。」

 そういって、不二夫君をひきよせ、ひたいに手をあててみるのでした。
「べつに熱があるわけでもないね。しかし、おとうさんには、信じられないね。もし、その金色のやつが、どろぼうだとすれば、グーテンベルクの聖書なんか盗んだって、なんにもならないのだよ。いくら高くても、売ることができないからだ。

日本ではおとうさんのほかに、だれも持っていないのだから、売ろうとすれば、うちから盗みだしたということが、すぐにわかってしまう。売れないようなものを盗んだって、しかたがないじゃないか。」

「でも、おとうさん。あいつは、売らないで、じぶんで持っているつもりかもしれませんよ。宝物をあつめて喜んでいるどろぼうだってありますからね。」

 不二夫君は、やっぱり少年探偵団員のひとりでした。ですから、世のなかにはフランスのルパンみたいな、美術品ばかりあつめているどろぼうもいることを、ちゃんと知っていたのです。

「うん、そういうどろぼうもあるかもしれない。しかし、いくら宝物をあつめても、ひとに見せて自慢できないのでは、しかたがないじゃないか。日本に、そんなどろぼうがいるはずはないよ。やっぱり、おまえは、まぼろしを見たんだ。なにか、こわい本でも読んだのじゃないのかね。」

 おとうさんは、どうしても、本気にしてくれないのです。
 不二夫君は、こまってしまいました。ずっとまえに、黄金仮面というふしぎなどろぼうが、この東京へあらわれたではありませんか。からだじゅう金色のやつだって、どうして、あらわれないときめることができるでしょう。

 不二夫君は、まぼろしを見たのではありません。たしかに黄金の怪人を見たのです。そのぶきみな声を聞いたのです。あいつは、だんだん、からだを小さくする、ふしぎな術をこころえています。ですから、小さくなって蔵の中へしのびこむのも、わけはないかもしれません。
 ああ、どうしたらいいのでしょう。なんとかして、おとうさんを本気にさせることはできないでしょうか。




posted by 美健マスター at 06:00| ★娯楽読物 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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