2017年09月20日

娯楽読物2-2 十円でこんなに映画が見られるなら

 十円でこんなに映画が見られるなら、やすいものだと思いました。
「移動映画館て、うまいことを考えたねえ。ぼく、こんなの、はじめて見たよ。」
「うん、ぼくも。それに、あの道化師のおじさん、説明がうまいじゃないか。」

 カウボーイの映画がおわると、道化師は、チョンチョンと拍子木ひょうしぎをたたいて、
「きょうは、これでおしまい。また、あした、今ごろくるからね。おこづかいをもらっておくんだよ。じゃあ、ハイチャ!」

 道化師は、みょうな身ぶりで、ひとつおじぎをすると、そのまま、運転席にはいり、小型自動車は、ノロノロと出発しました。
 井上、野呂の二少年は、なぜか、そのまま帰る気になれないので、ノロノロ自動車のうしろから、小ばしりについていきました。じゅうぶん、ついていけるほどの、のろさなのです。

 とちゅうで、道化師の顔が、運転席の窓からヒョイととびだして、うしろをながめました。そして、二少年がついてくるのを見ると、ニヤリと笑いました。おかしいような恐ろしいような、なんともいえぬ、きみょうな笑いかたでした。

 ふたりの少年は、
「なんだか、へんだなあ。この道化師は、あやしいやつかもしれないぞ。」
と思いました。

 それからしばらく行きますと、ひとつの町かどで自動車がとまりました。道化師は、なかなか出てきませんでしたが、やがてドアがひらいて、自動車の中からとびだしてきたのは、まるで違った、へんてこなやつでした。

 まっ黒なモーニングのような洋服をきて、頭に黒いきれをかぶり、その上に二本の黒いツノが、ニューッとのびているのです。顔には、目だけかくす覆面ふくめんをして、高い鼻の下に、ピンとはねたひげが、はえています。西洋の悪魔のような顔です。

 それが、拍子木を、チョンチョンとたたいて、
「さあ、みんな、集まっといで、おもしろい映画がはじまるよ。活劇映画のはじまり、はじまり!」
と、大きな声でさけぶのです。

 でも、もう夕がたですから、あまり子どもが集まってきません。やっと、四―五人の子どもが近よってきたばかりです。それでも、西洋悪魔にばけた男は、まず、オネスト=ジョンの菓子を売ってから、映画をうつして、おもしろそうに説明をはじめました。

「へんだね。さっきの道化師は、どうしたんだろう?」
 井上君が、ささやきますと、ノロちゃんが、しさいらしく答えました。

「そうじゃないよ。道化師があんなへんなやつにばけたんだよ。自動車のなかには、ひとりしか人間がいないんだもの。あいつ、きっと変装の名人だよ。ねえ、なんだか、あやしいやつだね。もっと、あとをつけてみようか。」
「うん、そうしよう。」

 ふたりは、少年探偵団員ですから、あやしいやつを見たら、あとをつけないではいられないのです。
 映画がすむと、西洋悪魔はまた運転席にはいって、車が動きだしました。こんども、ノロノロ走っています。そして、ときどき、悪魔の顔が窓からうしろをのぞいて、二少年がついてくるかどうかを、たしかめているらしいのです。

 ああ、なんだか心配です。このふしぎな男は、わざと車をノロノロ走らせて、ふたりの少年を、どこかへ、ひっぱっていくつもりではないのでしょうか。
 まだ夜とはいえませんが、あたりは、だんだん暗くなってきました。遠くのほうは、かすんで見えないくらいです。

 自動車は十分ほど走って、また、とまりました。そして、とまったまま、しばらく、てまどっているのです。あいつは、こんども、なにかに変装して出てくるのかもしれません。




posted by 美健マスター at 06:00| ★娯楽読物 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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